肩を治療しても治らない本当の理由
野球をしていて肩が痛くなり、「野球肩ですね」と診断された経験がある方は少なくありません。
病院や整形外科、整骨院で
- 腱板損傷
- 肩峰下滑液包炎
- インピンジメント症候群
- 上腕二頭筋長頭腱炎
と説明を受け、
「肩の筋肉が傷んでいるから仕方ない」
「投げすぎが原因なので投球練習を休むしかない」
と言われた経験がある方も多いのではないでしょうか。
しかし、肩の組織だけを治療しても、野球肩は根本的には改善しません。
当院では、数多くの野球肩症例を診てきた中で、ある共通点に気づいています。
それは、
「痛んでいる組織」ではなく「負荷が集中してしまう身体の使い方」
に問題があるという点です。
野球肩とはどのような状態か
野球肩とは、特定の一つの病名を指す言葉ではありません。
投球動作を繰り返すことで肩関節周囲に生じる障害の総称です。
臨床現場で「野球肩」と呼ばれることが多い代表的な障害には、以下のようなものがあります。
野球肩に含まれる代表的な疾患
腱板損傷
腱板(インナーマッスル)とは、肩関節を安定させる4つの筋肉の総称です。
- 棘上筋(きょくじょうきん)
- 棘下筋(きょくかきん)
- 小円筋(しょうえんきん)
- 肩甲下筋(けんこうかきん)
これらが投球動作の繰り返しによって損傷します。
ただし、腱板損傷があっても痛みが出ない選手が存在することも研究で示されています。
肩甲骨の前に付着する肩甲下筋は、投球動作の最大外旋時に負荷がかかります。そして、後面に付着する棘下筋、小円筋は投球時、腕をできるだけ速く振る必要があるため、腕を振った最後のブレーキ役として働きます。このように、肩甲下筋も棘下筋、小円筋も速い球を投げようとすればするほど当然負荷がかかってしまう部位ではあるのですが、過剰に負荷がかかってしまうことが要因で痛みを誘発してしまうのです。
しかし、腱板損傷と診断された場合、「インナーマッスルが弱いから鍛えなさい」と言われトレーニングを推奨されることが多いのが現状です。もちろんインナーマッスルを鍛えることは大切なことですが、その前に、投球時インナーマッスルに過度な負荷がかかる要因を取り除くほうが重要なのです。
インピンジメント症候群
上腕骨頭が本来より上方へ移動し、腱板や滑液包が肩峰の下で挟み込まれる状態です。
- 肩関節外転60~120度で痛みが出る(ペインフルアークサイン)
といった特徴があります。腱板や滑液包が肩峰の下で挟み込まれる(インピンジ)ことにより棘上筋が損傷したり、摩擦を防ぐための滑液包が炎症を起こして肩峰下滑液包炎になります。
投球時に痛みを訴えて整形外科受を診すると「インピンジメント症候群」と診断されることが非常に多いです。多くの場合、「投げ過ぎが原因なので投球練習を休むように」と言われます。
「数週間休んだけど投げだしたらまた痛い・・・」
インピンジメント症候群を患っている選手には、このような選手が非常に多いです。確かに投球を休めば炎症は収まるので一過性に肩の痛みは和らぎます。しかし、上腕骨頭が上方へ移動してしまう理由は広背筋の過緊張や肩甲骨の可動制限などが原因であるため、それらを改善しない限り投げ始めると再び肩の痛みが再発してしまうのです。
肩峰下滑液包炎
肩峰と腱板の間には滑液包があります。
本来肩峰と腱板との摩擦を防ぐための袋なのですが、この滑液包が繰り返し圧迫され、炎症を起こした状態です。
- 腕を上げる途中で痛む
- 投球後にズキズキする
といった症状が出やすくなります。肩峰下滑液包炎の場合、「この部位が痛む」と指1本で示せるほど痛む部位が明確です。炎症がひどい場合は強い圧痛がでることもあります。これは、炎症性の痛みであるため、体質的に炎症性サイトカインが出やすい選手の場合、痛みが長引くこともあります。
・普段からお菓子やカップラーメン、パンや麺を食べるなど食生活が乱れている
・睡眠時間が短い
・スマホを長時間見ている
などの生活習慣は自律神経のバランスを崩し、炎症性サイトカインを放出しやすくしてしまいます。それにより、なかなか炎症が治まらなくなり、投げるといつまでたっても痛みが続くという状態になってしまうこともあります。
棘上筋腱炎
投球時に最も負荷を受けやすい棘上筋に炎症が起こった状態です。
投球初期やリリース前後で痛みが出やすくなります。棘上筋腱炎もインピンジメント症候群により損傷をうけますが、まずは肩峰下滑液包炎が先に起こります。しかし、多くの選手が肩峰下滑液包炎を起こしながらも痛みを我慢し野球を続けてしまいます。その結果、肩峰下滑液包は炎症が何度も繰り返されることにより癒着してきます。そうなると棘上筋腱にも負担が増すことになり、棘上筋腱炎を引き起こすのです。そもそも、腱は筋肉よりも血液供給が悪いため治りづらい組織と言われています。棘上筋腱炎を起こし続けて棘上筋の損傷が大きくなると改善まで数か月かかってしまうこともあります。
上腕二頭筋長頭腱炎
肩関節前方を走る上腕二頭筋長頭腱に炎症が起こります。
- 肩の前側の痛み
- 投球後のズーンとした不快感
が特徴です。
上腕二頭筋長頭腱の炎症はレントゲンなどでは観察されないため、超音波検査で診断されることが多いです。
この上腕二頭筋長頭腱炎も非常に多くみられる疾患ですが、上腕二頭筋長頭腱炎単独で起こるより、インピンジメント症候群と併発して起きるケースも多くあります。それは、インピンジメント症候群を起こしていると、上腕二頭筋長頭腱に必ず負荷がかかってしまうことが要因です。
SLAP損傷(関節唇損傷)
「肩の関節にある『軟骨のクッション(関節唇)』の上側が、剥がれたり破れたりしてしまった状態」のことを指します。野球肩がなかなか改善しない場合、MRI検査をすると画像診断で、「SLAP損傷」と診断されるケースが多くあります。しかし一方で、野球などオーバーヘッドスポーツ選手で肩に痛みのない選手が、MRI検査をしたところ、79%の選手に関節唇に異常があったという研究結果も出ています。 つまり、SLAP損傷が肩の痛みの原因であるとは言い切れない部分もあるのです。
「関節唇(かんせつしん)」ってなに?
肩の関節は、受け皿(肩甲骨)に対して腕の骨(上腕骨)が乗っている構造ですが、受け皿がとても浅いのが特徴です。 そのままだと腕の骨が外れやすいため、受け皿の縁に**「関節唇」**というゴムパッキンのような軟骨がついて、お皿を深くし、安定させています。
これらを治療すれば野球肩は治るのか?
結論からお伝えします。
これらの組織を治療するだけでは、野球肩は根本的に治りません。
理由は明確です。
痛んでいる組織は「結果」であり、「原因」ではないからです。
野球肩の本当の原因は「負荷の集中」
投球動作は、肩だけで行われる動作ではありません。
- 足部
- 骨盤
- 体幹
- 胸郭
- 肩甲骨
- 肩関節
- 頸椎
これらが連動することで成立します。
この連動が崩れると、本来は全身で分散されるはずの負荷が、肩関節周囲に集中します。
その結果として、
- 腱板
- 滑液包
- 上腕二頭筋腱
- 関節唇
に障害が生じます。
特に重要な「肩甲胸郭関節」
肩関節は、肩甲上腕関節+肩甲胸郭関節という二つの関節の協調によって動きます。
肩甲骨が胸郭の上を滑らかに動かなければ、
- 上腕骨頭は上方へ変位
- インピンジメントが発生
- 腱板への負荷が増大
します。
つまり、肩甲胸郭関節の機能低下は、野球肩の土台になってしまうのです。
頸椎・胸椎・胸郭・骨盤の影響
肩甲骨は「浮いている骨」です。
固定されていません。
そのため、
- 頸椎の可動性低下
- 胸椎の伸展制限
- 胸郭の呼吸運動低下
- 骨盤の傾きや回旋制限
これらが起こると、肩甲骨の動きは必ず制限されます。
結果として、
- 肩がすくむ
- 肩が内巻きになる
- 投球時に肩だけで投げる
という状態が作られます。
なぜ体幹や肩甲骨が機能しなくなるのか
ここで重要なのが、機能神経学的な視点です。
身体の動きは、筋肉や関節だけで決まるものではありません。
呼吸の問題
呼吸が浅くなると、
- 胸郭が動かなくなる
- 肋骨の可動性が低下する
- 肩甲骨の運動面が失われる
という変化が起こります。
特に、
- 口呼吸
- 横隔膜が使えず肩で息をする呼吸
- マスクを常にしている
がある選手ほど、野球肩のリスクは高くなります。
脳の可塑性と動作のクセ
投球動作は、脳が学習した運動パターンです。
- 間違ったフォーム
- 疲労した状態での反復
- 痛みをかばった投球
これらはすべて、脳に記憶されます。
その結果、無意識のうちに肩へ負担が集中する投げ方が固定されます。
自律神経の関与
自律神経が乱れると、
- 筋緊張が高まる
- 回復力が低下する
- 痛みの閾値が下がる
といった変化が起こります。
特に交感神経優位が続くと、
- 大胸筋
- 小胸筋
- 広背筋
といった筋肉が過緊張し、肩甲骨の動きが阻害されます。しかし、大胸筋、小胸筋、広背筋が硬いからといっていくらほぐしても自律神経の影響で筋肉が硬くなっているため根本からは改善しません。「治療した後は軽いけどすぐに戻ってしまう」という場合、原因が自律神経からきているかもしれません。
土井治療院の野球肩に対する考え方
土井治療院では、
- 痛んでいる部位だけを見ない
- 全身の連動を評価する
- 神経・呼吸・姿勢まで確認する
という方針で野球肩を診ています。
野球肩で本当に大切なこと
最後に、最もお伝えしたいことです。
野球肩は「肩のケガ」ではありません。野球肩は「身体の使い方の破綻」です。
肩をマッサージしても、ストレッチをしても、一時的に楽になるだけで再発する場合。それは、本当の原因にアプローチできていないサインです。
野球肩でお悩みの方へ
- 病院で「異常なし」と言われた
- リハビリを続けても改善しない
- 投げると毎回同じ場所が痛む
このような場合、視点を変える必要があります。
土井治療院では、野球肩を「構造」「運動」「神経」「呼吸」「自律神経」すべての観点から評価し、再発しない身体づくりを目指します。
本気で野球肩を改善したい方は、一度ご相談ください。





お電話ありがとうございます、
土井治療院でございます。